裏社会で外国人犯罪組織が暗躍し、日本の犯罪組織とつながりを強めつつある-。そんな衝撃的な事実が明らかになった。警視庁が2日、犯罪収益移転防止法違反の疑いで逮捕したベトナム国籍の無職男は、同胞のベトナム人を率いて銀行の預金通帳やキャッシュカードを違法に収集。さらに特殊詐欺用の“道具”を扱う違法業者を通じ、日本人の詐欺グループに供給していたというのだ。警視庁は5月にも、道具の密売グループに所属していたとされるベトナム人男女4人を摘発している。闇の一端を追った。
■これまでにベトナム人10人以上摘発
今年2月ごろ、埼玉県川口市のJR西川口駅構内の現金預払機(ATM)コーナー。留学生として来日していた20代のベトナム人の男が、グエン・トゥン・ゴック容疑者(23)と向かい合っていた。留学生の男が、何かをグエン容疑者に譲り渡す。するとグエン容疑者からは見返りに現金2万円が手渡された。
2人がやり取りしたのは、留学生の男が自身の名義で開設した銀行通帳とキャッシュカード。違法な口座譲渡の現場だった。通帳とカードはその後、日本人の詐欺グループによる特殊詐欺の詐取金の振込先として使われることになった。
グエン容疑者は今月2日、犯罪の「道具」として使われることを知りながら通帳とカードを違法に入手したとして、警視庁組織犯罪対策1課に逮捕された。
組対1課によると、グエン容疑者が行った犯行はこの1回だけではない。収集した口座やカードを「道具屋」(特殊詐欺グループに詐欺用口座などを供給する違法業者)に転売し、利ざやを稼ぐ犯行を重ねていたとみられるという。
同課は5月にも、同様の口座売買を繰り返していたとして、同容疑で、ベトナム人グループの男女4人を摘発。このグループでは、20代のリーダー格の男の下で、20~30代のベトナム人の男女3人が犯罪行為を組織的に行っていた。グエン容疑者は、このグループと連携し、犯行ノウハウの指南役も務めていたという。
「グエン容疑者らは、1口座あたり2万円前後の収益を得ていた。昨年7月から今年5月にかけて計約1800口座を売買し、約2600万円を売り上げていた」(捜査関係者)
同課は、グエン容疑者らに口座を提供していた留学生や技能実習生らも摘発した。事件により逮捕されたベトナム人は計15人に上る。これほどの規模でベトナム人グループによる組織的犯行が明らかになるのは「極めて異例」(捜査関係者)という。
■アカウント名は「悪い奴」
背景には“異国”に滞在する外国人同士の強固なネットワークの存在や、会員制交流サイト(SNS)の発達があるようだ。
「グエン容疑者らは平成27年ごろから、在日ベトナム人向けのSNSに『口座を買います』と投稿し、呼びかけに応じた同胞から口座を入手していた。グループはSNS内に複数のアカウントを所持。その一つは、ベトナム語で『悪い奴』を意味する『ヘクシーブイ』というアカウントだった」(捜査関係者)
外国人が特殊詐欺事件に関与し、摘発される事例が近年、目立ち始めている。
静岡県警は今年6月、詐欺の疑いで、神奈川県平塚市のベトナム国籍の男=当時(31)=を逮捕した。男は28年、仲間と共謀し、東京都昭島市の女性=同(85)=に息子を装って「お金と書類の入ったカバンをなくした」などと電話。現金500万円をだまし取ったとされる。
捜査関係者によると、男はベトナム戦争後に来日した難民の2世で、同国国籍を持ちながら定住者として日本で生活基盤を築き、日本人の不良グループなどと交流していたという。
今年5月には、警視庁が観光目的と偽ってクルーズ船で来日し、詐取金を引き出す「出し子」として詐欺グループに加わっていた中国籍の男=同(34)=を逮捕した。男のグループは2月、大手百貨店の社員などを装って東京都板橋区の女性=同(92)=に「キャッシュカードが不正に使用された」などと電話をかけ、カードを詐取。男はこのカードを使って約50万円を引き出したとされる。男は少なくとも約30件の詐欺事件に関与したとみられ、被害額は都内だけで約2千万円に上るという。
捜査関係者によると、男は留学生として来日。建造物侵入罪を犯し、18年に中国に強制退去させられていた。現地で名前を変えて昨年2月、再来日。グループの仲間とは中国人利用者が多いSNS「微信(ウェイシン)」で連絡を取り合っていたという。
捜査関係者は「日本の犯罪組織と外国人を結びつける役目を、日本に足場がある外国人が果たすことが多い。パイプ役となる外国人がSNSで同胞を犯罪に引き込む。彼らのコミュニティーは極めて閉鎖性が強いため、実態把握は困難だ」と危機感をにじませた。
産経新聞より