夏祭りデビュー

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女性警備技術士 美咲の挑戦(第5話)

 夏祭り当日。
 夕暮れの空は朱色に染まり、会場の提灯が一斉に灯り始めていた。
 人々の笑い声、屋台から漂う甘い香り――そんな賑わいの中、美咲はロボダンを横に立たせ、深呼吸をした。
 これが、資格取得後、初めての実際の現場だ。

 美咲の持ち場はメイン通りの入口。
 ここでは歩行者と車両の動線を分け、混雑を防ぐ役割がある。
 ロボダンが明るい声で案内を始めた。
 「こちらは歩行者専用です。車両は右へお回りください!」
 その横で美咲が旗を振り、来場者をスムーズに誘導する。

 開始から30分、すでに人波は絶えない。
 子ども連れの家族が近づいてきたとき、ロボダンが少し前に進みすぎて通路を塞いでしまった。
 美咲は即座にスマホで後退操作。
 「ごめんなさい、こちらをどうぞ」
 母親は笑顔でうなずき、子どもはロボダンに手を振った。
 「バイバーイ!」
 ロボダンも手を振り返し、周囲から小さな拍手が起きた。

 夜になると、人の流れはさらに増した。
 花火の時間が近づき、一時的に入口が混み合う。
 その瞬間、美咲はロボダンの音声を切り替えた。
 「足元にお気をつけください。立ち止まらず前へお進みください」
 その声が人波の中に響き、流れが落ち着いていく。

 終了時間、持ち場を離れた美咲に、主催者の男性が声をかけた。
 「ロボダン、すごく好評でしたよ。あの誘導も素晴らしかった」
 大地も笑って親指を立てる。
 「完全に現場の顔でしたね、美咲さん」
 美咲は少し照れながらも、胸の奥が温かくなるのを感じた。

 帰り道、遠くで花火が上がった。
 ロボダンのLEDの目が、その光に合わせて小さく瞬く。
 ――この仕事なら、これからも胸を張って続けられる。
 美咲はそう確信し、次の現場を心の中で楽しみにしていた。

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