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夏の朝、まだ日差しは柔らかいが、街はすでに慌ただしく動き始めていた。
美咲は制服の胸元を軽く整え、深呼吸をひとつ。今日から彼女は、新しい道を歩み始める。
30歳を過ぎた頃、美咲はふと、自分の仕事について考えた。
これまでの警備員としての日々は、交通誘導や施設警備が中心だった。仕事は嫌いではない。しかし、いつも同じ現場、同じ作業の繰り返しに、心のどこかで物足りなさを感じていた。
そんな時、警備大学校のサイトで「警備技術士」の文字を見つけた。
説明にはこう書かれている。
――ロボダンなどの最新保安機材を使いこなし、防犯や警備の現場に新しい価値をもたらす人材――。
その言葉に、胸が高鳴った。
初めて講習に参加した日、美咲は驚いた。
目の前には、段ボールで作られたロボット「ロボダン」が立っていた。
ただの飾りかと思いきや、音声で案内し、手を動かし、移動までできる。
「この子が現場で働くの?」と半信半疑の美咲に、講師は笑って答えた。
「そう、でも動かすのは“あなた”です。あなたがロボダンを動かす技術士になるんです。」
講習は想像以上に奥深かった。
工具を握るのは久しぶり。配線やプログラムの入力は初めてだ。
何度も失敗し、音声が出ずに途方に暮れた日もあった。
それでも、美咲は諦めなかった。
「私にもできる。いや、私だからこそできる」
女性だからこそ見える視点、防犯の現場で必要な気配り。それをロボダンと組み合わせれば、新しい警備の形が生まれると信じていた。
そして今日、美咲はロボダンを連れて初めての現場に立つ。
場所は、夏祭りの会場入口。人波の中、ロボダンが明るい声で呼びかける。
「いらっしゃいませ。こちらで手荷物検査をお願いします!」
子どもたちが目を輝かせ、カメラを向ける。
大人たちも足を止め、笑顔が広がる。
その光景を見ながら、美咲は心の中でつぶやいた。
――これが、私の新しい挑戦の始まりだ。