タバコで問題になるのは、喫煙者が吸い込む主流煙よりも、タバコの先から立ちのぼり、ほかの人も吸い込む副流煙です。というのも副流煙には、主流煙よりもずっと多くの有害物質が含まれているからです
たとえば、タバコの3大有害物質を比較すると、主流煙を1とした場合、副流煙にはニコチンが2.8倍、タールが3.4倍、一酸化炭素が4.7倍も多くみられます(厚生労働省『喫煙と健康』第2版)。
ニコチンは神経毒性をもつ物質で、末梢血管を収縮させ、血圧を上昇させる作用があります。また、依存性があるため、タバコを喫わないとイライラし、なかなかタバコをやめられない原因にもなります。タールは、タバコの成分が熱で分解されてできる粘着性の物質で、ベンゼンなど多くの発がん性物質が含まれています。そして一酸化炭素は、タバコが不完全燃焼するときに発生する物質で、血液中では酸素よりも先にヘモグロビンと結合します。そのためからだが酸素不足状態になり、活動量が低下し、疲れやすくなります。また、血液中のコレステロールを酸化させ、動脈硬化を促進する作用もあります。
このように副流煙は、さまざまな作用をもつ有害物質を多く含むため、その影響は肺がんだけでなく、喘息などの呼吸器障害、心筋梗塞などにまで及ぶことが分かってきています。
その一方で、受動喫煙の危険性に対する認識度は、まだあまり高いとはいえません。多くの方は、分煙したり、空気清浄機があれば、防ぐことができると思っているのではないでしょうか。こうした誤解をなくし、受動喫煙による健康障害をできるだけ減らすための対策について、知っておきましょう。
(※1)神奈川県では2010年4月から、兵庫県では2013年4月から、病院などの公共施設は全面禁煙にし、また大規模なホテルや飲食店などにも禁煙、あるいは分煙のための設備を求める条例を施行しています。
(※2)主流煙は、喫うときに800℃もの高温になるため、有害物質も燃焼されやすくなります。それに対して副流煙は低温のため、煙のなかに多くの有害物質が残り、それだけ危険性の高い煙だといえます。
受動喫煙とがんの関係
受動喫煙の影響として、だれもがまず思い浮かべるのは肺がんでしょう。
国立がん研究センターの多目的コホート研究によると、夫がタバコを喫う場合、女性(同居。自分は喫わない)の肺がんリスクは1.3倍程度になります。しかし、肺腺がんに限定すると、リスクは2倍以上にもなることが報告されています(※3)。
肺腺がんは、肺の奥(肺胞付近)にできるがんで、女性に多くみられます(詳細はバックナンバー100「肺腺がん」をご参照ください)。一般に、ほかのタイプの肺がんと比較するとタバコ(喫煙)の直接的な影響は少ないものの、汚染大気の影響を受けやすいという特徴があります。
受動喫煙の場合、空気中に広がった副流煙の微小有害物質を呼吸と一緒に吸い込むため、肺の奥深くまで入りやすく、それが肺腺がんを引き起こす一因だと推測されています。そのため多目的コホート研究では、「タバコを喫わない女性の肺腺がんの37%は、夫からの受動喫煙を避ければ防ぐことができる」としています。
受動喫煙とがんとの関係は、肺がんだけではありません。
国立がん研究センターの別の調査では、タバコを喫わない女性が家庭や職場で受動喫煙の状態にある場合、乳がんの発症リスクが最大で2.6倍にもなることが報告されています(※4)。ただし、これは閉経前の女性に顕著なことから、女性ホルモンの活性がなんらかの影響を及ぼしていると推測されています(閉経後の女性では明確なリスクはみられません)。
そのほかのがんについては、まだ詳細な調査がありませんが、国際がん研究機関(WHOの外部機関)では、受動喫煙を発がん性のリスクがもっとも高い「グループ1」クラスに位置づけています。
(※3)女性の肺腺がんのリスクは、夫の喫煙本数が1日20本未満では1.7倍、20本以上だと2.2倍になり、本数が多いほど受動喫煙の影響も大きいことが指摘されています。
(※4)同調査では、家庭よりも職場での受動喫煙の影響が大きいという結果もみられます。ただし、受動喫煙の時間や量には個人差もあるため、理由は明確になっていません。
http://www.healthcare.omron.co.jp/resource/column/life/119.html
omron hpより